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我らが門の内にて【日本語字幕付き】(1920年 アメリカ映画 オスカー・ミショー監督)

1920年制作のパブリックドメイン、アメリカ議会図書館、映画保存センター保有の『Within Our Gates』に日本語字幕を付けたものです。
動画で紹介してるくせにどこにもないやんけ、と怒られたので泣きながら作りました。

例によってオリジナルサウンドトラックがなく、無音は寂しすぎるので、今回は
   / @peritune  
様のチャンネルより素敵BGMをお借りしております。選曲、構成は適当ですごめんね。

監督オスカー・ミショーの二作目の作品で、一作目の『The Homesteader』が失われているため、現存する映画のなかでアフリカ系アメリカ人(黒人)監督によって作られた最古のもの、とされています。
いわゆる「Race film(人種映画・黒人観客向けに製作され、黒人俳優が出演した映画)」の草分け的な作品で、歴史的価値が非常に高い作品。現実の社会における黒人の様々な側面を描いており、当時の彼らの生活を象徴する重要な作品であるともみなされています。
1919年の人種暴動のいわゆる「赤い夏」の一年後で、リンチや強姦未遂のシーンが人種間の暴力を誘発することを懸念して様々な都市で映画の上映を阻止したり、それらのシーンのカットを要求したり、と歴史的、社会的背景を知ってから見た方が意義があると思われます。
1915年制作のグリフィス『國民の創生』へのアンサーとも言われていますが、ミショーが言うには「第一次世界大戦後の広範囲に広がった社会的不安定さへの回答として独自に作った」とのこと。
2023年、Slate誌によって黒人監督による史上最高の映画の1つに選ばれ、"new Black film canon"のトップにリストされました。

ただし、ミショーの作品は、しばしば美的繊細さや芸術的力に欠けると批判されています。くわえて『國民の創生』の潤沢な予算に比べ、予算不足を想像させる点も多く、エンタメとしては不足を感じざるを得ない。
美的な点においてはおそらくミショーの本質が文筆家、啓蒙家であったためとも思われます。
人種差別、奴隷制度、女性の権利、そして大移動(Great Migration)後に出現した都市部の「New Negro」 について観客に啓蒙しようとした、と言われており、白人プロデューサーによる黒人の否定的な描写、つまり侮辱的なステレオタイプを蔓延させる映画に対抗する映画を作ろうとし、様々な階級の複雑な登場人物を創造、黒人社会と白人社会双方の価値観に疑問を投げかけ、マスコミや国家検閲官の間で論争を巻き起こした、とのこと。

啓蒙、プロパガンダ作品ではありますが、ミショーの根本的な信念の一つが、人種に関わらず、勤勉さと進取の精神があれば誰でも尊敬と名声を得ることができるというもの。当作品内でもいかんなく示されています。
個人的な感想ですが、人種問題において近年散見されるような、エゴイスティックな視点だけのただの不満の感情や感想なんかと比べると、高潔さを感じる…

ミショーの墓石に刻まれている言葉。"A man ahead of his time"(時代に先駆けた男)

劇内注釈。
・劇中に出てくるヴィヴィアン医師が読んでる雑誌「リテラリー・ダイジェスト」は世論調査の成功と失敗で有名な雑誌。1938年に廃刊。
・ストラットン夫人が読む新聞に出てくるヴァーデマン(Vardeman)は、Vardaman、ジェームズ・K・ヴァーダマン上院議員にちなむもの。「偉大なる白人の酋長」なんて言われ、白人至上主義で選挙で支持を集め「必要とあらば州内のすべての黒人がリンチされるだろう。白人至上主義を維持するために」と発言。
・南部の黒人の借金について。南北戦争後、南部は解放された黒人奴隷を統制するための法律「ブラック・コード」を制定。多くの元奴隷であるホームレスや失業中の黒人が、浮浪者として逮捕され、罰金と訴訟費用を請求。罰金を支払うだけの資金がなかった「浮浪者」は、郡の労働に送られるか、囚人リース制度の下で民間の雇用主に雇われた。1966年にジョンソン大統領によってこの実質的な奴隷制が廃止されるまで、南部諸州の小作農は、過去の負債の返済や税金の支払いのために働き続けなければならなかった、とのこと。
・ラストシーンでヴィヴィアン医師が語る、メキシコのカリサルは1916年にメキシコの町カリサルで、アメリカ合衆国陸軍とメキシコ軍の間に発生した大規模な戦闘のこと。余談ですが、カリサルの戦いを舞台とした1917年の人種映画『The Trooper of Troop K』。監督は白人(制作会社のリンカーンモーションピクチャーカンパニーで唯一の白人)で、フィルムの大半が失われていますが、残っているわずかな部分は、「黒人が制作に関わった映画の現存する最古の断片」らしいです。
・同じくヴィヴィアン医師の言うフランスのシャトー=ティエリ他地名は第一次世界大戦における1917年のアメリカ外征軍の話。黒人が白人と同一基準で徴兵された。

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